高松地方裁判所 昭和58年(む)129号 決定 1983年3月29日
主文
原裁判を取消す。
本件勾留請求を却下する。
理由
一 本件準抗告の申立の趣旨及び理由は、弁護人宮川清水作成の準抗告申立書記載のとおりであるから、これをここに引用する。
二 当裁判所の判断
一件記録を検討するに、被疑者は、昭和五八年三月四日、昭和五七年九月九日坂出市内で現金一万二〇〇〇円を窃取したという被疑事実(以下「別件」という。)で逮捕され、昭和五八年三月五日勾留され、同月一四日重要参考人取調未了の理由で同月二四日まで勾留期間が延長され、同日処分保留のまま釈放されたところ、同日本件被疑事実により逮捕され、本件勾留請求となったことが認められる。
また本件記録によれば、本件被疑事件は昭和五八年三月一日発生し、同日、被害届がなされそのころから容疑者として本件被疑者が特定されていたこと、同月五日本件逮捕状が発付されていること、前記認定のごとく同月四日に別件被疑事件で逮捕し本件逮捕状の執行が可能であるにもかかわらず本件逮捕状の執行をあえてせず、右逮捕状の有効期間の切れる同月一二日に至り別件被疑事件で釈放になった場合に備え逮捕状有効期間更新請求をなし右請求が認められていること、そして事実、本件逮捕状の執行は前記認定のごとく同月二四日別件被疑事件で釈放した直後になされていることが認められる。
さらに別件捜査記録によれば、別件勾留期間中になされた別件の捜査としては、三月一一日、二四日の各日付の被疑者の供述調書、同月一一日付の共犯者藤岡和幸の供述調書(同人の供述調書の重要なものはこれ以前に作成済)、茨一徳、川田廣次の各供述調書が作成されているのみで、別件被疑事件の状況を知っていると思料される金沢勝が所在不明のため取調未了のほかは別件被疑事件の重要部分の捜査はつくされており、右勾留期間中に本件被疑事件についても取調を十分行いうるにもかかわらずこれを行った形跡が認められないのみならず、むしろ本件逮捕状の発付を得てその執行を温存し別件被疑事件で釈放後に再逮捕しようとしたふしが見うけられるのである。
以上よりすれば、本件被疑事件について別件勾留期間中に十分取調をすることができるにもかからわらずあえてこれをせず、再度本件被疑事件について逮捕、勾留を繰り返すことは、いわゆる逮捕、勾留のむし返しであって起訴前の逮捕、勾留につき厳格な時間的制約を設けた法の趣旨に反する違法ないし不当なものというべきである。
してみれば本件勾留請求は、結局その必要性を欠くものと認めるのが相当であり、本件勾留請求はこれを却下すべく、刑事訴訟法四三二条、四二九条、四二六条に従い右と異なる原裁判を取消すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 安藝保壽 裁判官 横山敏夫 横山光雄)